BPSDに使用される薬について

超高齢化社会へ進む日本において、厚生労働省によると、認知症の患者数は、2012年に462万人、2025年には、678万人に増えると推計されて、認知症も大きな問題となってきています。
認知症の症状は、中核症状と行動・心理症状(周辺症状)の大きく2つに分かれています。中核症状は、もの忘れ、判断力の低下、時間や場所の見当がつかないなどの認知症患者にほぼ共通しておこる症状です。これらの症状を改善する薬は、症状の悪化を遅れせるに留まり、根本的治療には至っていないのが現状です。
一方、行動・心理症状(周辺症状)は、中核症状に伴っておこる症状であり、夜間せん妄、幻覚、妄想、意欲低下、睡眠障害、抑うつ状態など、人によって症状は様々です。
行動・心理症状(周辺症状)は、英語では Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia と言い、BPSD(ビーピーエスディー)という略語が使われています。

中核症状と行動・心理症状との関係
中核症状と行動・心理症状との関係

BPSDに使用されている薬

  • 抗精神病薬…リスペリドン、クエチアピン、オランザピン
    ※但しクエチアピンやオランザピンは高血糖あるいは糖尿病を合併する患者には使用してはいけません。
  • 抗うつ剤…フルボキサミン、パロキセチン、ミルナシプラン、サインバルタ
  • 漢方薬…ゾルビデム、ゾピクロン(非ベンゾジアゼピン系睡眠薬)

個々の行動・心理症状(周辺症状)について非薬物的対応と薬物的対応

1.物盗られ妄想のひどい患者さんへの対応

まず処方薬を疑ってみる
*ベンゾジアゼピン系薬剤が認知機能低下や物盗られ妄想に影響している可能性があります。

盗まれたことを否定せず、一緒に探す

整理整頓して見つけやすい環境にする

2.夜間の徘徊のひどい患者さんへの対応

施設を「自宅に近い環境」に調整する
*抑肝散およびクエチアピン錠を処方する。

3.昼夜逆転のひどい患者さんへの対応

眠れない原因を探る
身体的問題・精神的問題はないか。
薬物・アルコールなどの影響はないか。
就寝する部屋の環境を確認する。
*オランザピン錠を少量処方する。

4.暴言・暴力のひどい患者さんへの対応

デイサービス/ショートステイの導入を検討する
*抑肝散およびクエチアピン錠を処方する。

5.抑うつ症状のひどい患者さんへの対応

抑うつ症状の評価と原因を考える

過剰および不適切な処方を確認する

抑うつ症状のきっかけを探る
*フルボキサミン、パロキセチン、ミルナシプランなどを処方する。

6.不安のつよい患者さんへの対応

傾聴により現状を把握する

ケアカンファレンスにより不安要因を除去する
*つよい不安に対してリスペリドン、オランザピン、クエチアピンなどを処方する。
*比較的弱い不安に対して抑肝散を処方する。

最後に継続使用でBPSDが軽快していると判断できる場合は必要に応じて減量・中止を実施し、できるだけ長期使用は避けるのが原則です。

かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神病薬使用ガイドライン(第2版)参考